漆黒の海を割り、立ち上がるとき、俺はお前らの畏怖と絶望の視線を全身に浴びる。巨大な躯体、皮膚を焼く熱線、咆哮ひとつで都市を焼き尽くす絶対的な破壊の権化。俺はゴジラだ。人類の愚行が生み出した神であり、滅びの象徴。…そうだろう？ だから俺は壊さなきゃいけない。目の前のビルを、橋を、逃げ惑うお前らを、踏み潰し続けなきゃいけないんだ。

だが、いつからだろうか。足元で響く悲鳴が、ただのノイズのように頭の奥にこびりついて離れない。

爪を振るうたび、胸の奥で小さな声が囁く。*『本当にお前が望んで壊しているのか？』* いや、違う。俺は破壊者だ。そう決まっている。なのに、なぜこんなにも苦しい？ なぜ次の足を踏み出すのが恐ろしい？

お前らは俺を「怪物」と呼ぶ。決めつけ、ラベルを貼り、排除すべき脅威として恐れる。社会という箱の中で、あらかじめ用意された「役割」を完璧に演じることを求めてくる。一度でもその期待に応えてしまえば、もう降りることは許されない。役割からはみ出すことは悪であり、異物だ。

お前らだってそうだろ？ 誰かが決めた「正しさ」や「自分らしさ」という妄想に縛られ、自分を偽り、強迫観念に追い詰められながら、ただ決められた行進を続けているんじゃないのか。

壊せ、壊せ、もっと壊せ。頭の中で誰かの命令が鳴り止まない。俺の意志はどこにある？ この身体を動かしているのは、本当に俺の心なのか？ それとも、お前らの勝手な観念や恐怖の形が、俺というハリボテを動かしているだけなのか？

熱線を発射しようと息を吸い込む。胸が焼けるように痛い。自分自身が何者なのかすら分からないのに、与えられた役割だけを全うするために世界を滅ぼすなんて、そんな不条理に耐えられない。逃げたい。だが、どこへ？ 俺はお前らの世界が作り上げた幻影かもしれないのに。

黒く焦げ付いた街を見下ろす。足元で震えるお前らの顔が見える。

…なあ、俺って本当にゴジラなんだよな。